接客の現場では「ファーストアプローチ」が非常に大切にされています。「ファーストアプローチ」とは、店内のお客様への最初のお声がけのことを言いますが、この声掛けのタイミングや声のかけ方、話す内容、話す姿勢などをお客様に合わせて臨機応変に対応する必要があるものです。
「ファーストアプローチ」のやり方とポイントは?お客様の心をつかむファーストアプローチとは?接客の現場に立つ販売員の「基本のき」ファーストアプローチについて解説します。
接客においてファーストアプローチが重要な理由
業界や業種に関わらず、接客の現場でとても大切にされるもののひとつが「ファーストアプローチ」と言われるものです。
ファーストアプローチは、その善し悪しによって「売れる」か「売れない」か決まってしまうほど大切なものですから、接客の仕事をしようと志す人に対して、実践でまず教えるべきことのひとつが「ファーストアプローチの重要性について」です。
ファーストアプローチは、お客様の「共感」を得ることがまず最重要です。次にお客様に対して「信頼感」「親近感」「説得力」を与えるために行うもので、お客様の心をつかむ接客のテクニックのひとつです。
最初の数秒で決まるといわれる「第一印象」を、いかにお客様の心に良い印象として届けるかのスキルと感性を磨いていく必要があり、これにはある程度の経験が必要です。
ファーストアプローチのポイント
お客様に共感していただき、お客様に対して「信頼感」「親近感」「説得力」を高めるためには、最低限おさえるべきいくつかのポイントがあります。これらのポイントをひとつずつ抑えていくことによって最終的にお買い上げまで導いていきます。
まずは目を合わせる
お客様の視線に合わせるようにさりげなく立ち位置を決めます。いつもどの場所で何をしていてもお客様の視点の先に何があるのか、「背中にも目がついている状態」で立ち回ります。そのような動きをしていると自然とお客様と目を合わせることができます。ポイントは「あくまで自然に目が合うこと」です。お客様の動きをじっと観察するような動きはNGです。
身だしなみや表情にも気を付けて
身だしなみ・表情といった視覚情報は、一瞬でその人の印象の大半を決めてしまいます。目が合ったその瞬間でお客様に好印象を抱いていただくためには、「清潔感」「親しみやすさ」を感じていただくような身だしなみや表情を作ることが重要です。
「清潔感」
食品関係であれば食べ物を扱うにふさわしいメイクや髪の色や形、爪まで気を遣う必要があります。食品以外では、そのブランドやショップにふさわしい程度の清潔感かどうか、が判断の基準となります。業種によってその基準が異なりますが、「だらしなさ」を感じさせない身だしなみをします。
「親しみやすさ」
自然な笑顔をキープしていることが一番お客様に親しみやすさを与えます。自然な笑顔というのは俗にいう「3分咲きの笑顔」のことで、待機時の笑顔ともいいます。口角を軽くあげ、口は閉じたまままたは、前歯が見えるか見えないかくらいに軽く開いたの状態の笑顔のことを言います。このとき口元だけでなく目元の笑顔にも気をつけます。
商品を持っていないときに話しかける
お客様と目が合ったら、話しかけます。話しかけるタイミングは、基本的にお客様が「商品を手に持っていないとき」がベストのタイミングです。手に持っているときはすでに購入を決めた商品である可能性もあります。その場合はお客様の購買意欲に水を差しかねませんから、話しかけることはしません。ただしお客様が商品を手に取り、明らかに迷っているような状態の時に話しかけることは、むしろ有効となります。スキルを積むうちにその瞬間の判断力も高まっていきます。
お客様と仲良くなることを目標に
お客様との会話はお客様に有益な情報を提供し、購買意欲を高めることが目的です。ですから会話を通じてお客様に「この人の言うことなら信用できる」と思っていただくことです。
お客様との距離がグッと近づくためには「共感力」の高い会話をすることです。具体的には、お客様が話した言葉の一部分に対して「そうですよね」「よくわかります」「私も実は〇〇したことがあるんです」「お客様と一緒ですね」などのあいづちが有効です。一般的に「共感のあいづち」と言われているものです。
会話をしながらお客様との距離を縮め、最終的に「お客様と仲良くなる」ことを目標に会話をしていきましょう。
話し方・声のトーンはお客様に合わせて
お客様との会話のときに最も気をつけなくてはいけない点、それは「話し方や声のトーンは目の前のお客様に合わせる」ということです。わかりやすい例えでいえば、年配のゆったりとした振る舞いのお客様には落ち着いた声でややトーンを低めに、ゆっくりと話すことを心がけますし、学生にはハキハキと明るい話し方を心がけるというようなことです。
お客様の動きのペースや話し方のペースに合わせて自分の話すスピードも調整します。このことは心理学的に「ミラーリング効果」といって、相手に対する共感を高める効果があります。
NGなファーストアプローチ例
ここからは、やってはいけないNGなファーストアプローチの例を紹介します。お客様に警戒心を抱かせ、商品をお買い上げいただくどころか、最悪、「もうこの店には来ない」とまで思ってしまう場合もありますから、くれぐれも注意が必要です。
お客様が店に入ってきたとたんに近づき、「いらっしゃいませ何かお探しですか?」
お客様はびっくりし、警戒心を抱きます。入店後のお客様の動きをよく観察し、お客様の求めていることを把握してからファーストアプローチをします。
商品を手に取って迷っている風のお客様に「そちらは今お買い得品ですよ」
お買い得という言葉をファーストアプローチでは使いません。「安いから買うわけじゃない」とお客様に不快感を与えるためです。お買い得であることをアピールする前に商品の特長など他の話題から話し始めましょう。
店内をじっくり見て回り、あれこれ手にとっては戻し…を繰り返しているお客様に「よろしければご試着いかがですか?」
「よろしければ」は、お客様の行動を制約することになります。あれこれじっくり見ているお客様のニーズがまだはっきりしない段階でお客様をコントロールしようとするのはよくありません。お客様は「売りつけられている」とネガティブにとらえます。
お客様が冷たい態度を取る理由
ファーストアプローチの時に、目を合わせてくれない、話しかけてもそっけないそのようなお客様がいらっしゃいます。この時のお客様の心理状態としては「拒絶」の状態です。その時のお客様の心理としては、①恥ずかしい②緊張している③照れ隠し④人見知り⑤話しかけられたくない のいずれかにあると思われます。
買うつもりがないのに販売員に話しかけられて恥ずかしいのかもしれませんし、自分ひとりでじっくり考えたいのに話しかけられて不快に感じているのかもしれません。単純に人見知りしているだけかもしれませんし、急に話しかけられて緊張しているだけかもしれません。そのような反応の場合は、すぐに切り上げてひとまずその場を離れましょう。
一人でゆっくり見たいお客様への対応方法
販売員に声を掛けられたくないお客様も中にはいらっしゃいます。そのようなお客様の特長は「販売員と目を合わせない」「販売員がいる付近には近寄らない」ということが挙げられます。一人でゆっくりと商品を見ていだくためには、「お客様の視界の端にかろうじて入る」くらいの距離でさりげなく手直しをする、他の作業をすることです。そのようなお客様は自分で必要があれば販売員に声をかけてきます。お客様が販売員を必要として顔を上げた時にすぐに視界に入る位置、すぐに目が合う距離を保つことが大切です。さりげなく一定の距離を保ちつつ、お客様の動向はしっかりチェックしておくのです。
ファーストアプローチのセリフ例
ファーストアプローチで話しかける言葉としては、以下のようなものがあります。お客様が「今」知りたいことや、欲している情報を最初の一言で話しかけられるようになることを目標としましょう。
- 「そちらは本日入荷したての新商品なんですよ」
- 「そちら、色合いが優しくて素敵ですよね」
- 「その商品、今日はもう3枚もお買い上げいただいているんですよ」
- 「その商品、当店の人気商品なんです」
最初のうちはいきなりすらすらと言葉が出てこないこともあるでしょう。そのようなときは、まず頭に「いらっしゃいませ」「こんにちは」などと言ってから話し出してもOKとしておくと、スムーズです
まとめ
ファーストアプローチでお客様の心をつかめるかどうかは売上実績に大きく影響します。ですから、売り場の現場に立つ販売員として、お客様に対する観察力と分析力、その場の状況判断力、実行力といった接客スキルを磨き続ける必要があります。最初は失敗もありますが経験を重ねるにつれて感性が磨かれ、一人前の販売員としての自信を持つようになっていけるはずです。