上質な接遇をするためには、正しく接遇用語を使いこなすことはとても大切な要素であるといえます。接遇用語は通常の尊敬語や接客用語とはまた異なり、独特の言い回しや言葉遣いが特徴で、上級の秘書検定では必須のスキルです。ワンランク上の接遇を目指すのであれば、正しく接遇用語を使うことを目指しましょう。
接遇用語とは
「接遇」とは、お客様の心情や状況に寄り添い、お客様をもてなすことです。
「接遇マナー」というのは、接遇のスキルや心を取り入れた接客の態度や表情、立ち居振る舞いのことをいいますが、接遇をする際に使う言葉遣いことを特に「接遇用語」といい、一般的に使う「敬語」や「接客用語」とは異なった独特の言葉遣いや表現方法、言い回しを用います。
接遇用語はビジネスの場における接遇のプロである秘書の人には必須のスキルとされており、準1級以上の秘書検定では接遇用語を正しく使えることが強く求められています。ワンランク上の接遇のスキルを身につけようという場合は接遇用語をマスターしておく必要があるのです。
よく使う接遇用語
接遇用語には決まった言い回しや言葉遣いなど、さまざまなものがありますが、実際の接遇の場面でよく使うものがあります。ここではよく使う接遇用語について解説していきます。
人の呼び方
お客様をお呼びする際に、使う「人」「立場」に応じた接遇用語の使い方がもっともよく使う用語です。人の呼び方については以下の通りです。実際の接遇の場でスムーズに用語が出てくるように、何度も声に出して練習しておきます。
対象となる人 | 接遇用語 |
私 | わたくし |
わたしたち | わたくしども |
相手の会社 | 御社/〇〇(社名)様 |
自分の会社 | 弊社/当社/わたくしども |
本人 | あなた様/そちら様/ご本人様 |
あの人 | あの方/あちらの方 |
誰 | どなた様/どちら様 |
同行者 | お連れ様/お連れの方 |
父 | お父様/お父上 |
母 | お母様/お母上 |
夫 | 旦那様/ご主人様 |
妻 | 奥様 |
息子 | ご子息/お坊ちゃま/ご令息 |
娘 | お嬢様/お嬢さん/ご令嬢 |
その他の頻出用語
人の呼び方に加えて、お客様の接遇の際に非常によく使う頻出の接遇用語についてもまとめました。
一般的な敬語や接客用語よりも普段の日常会話ではほとんど使わないようなより独特の言い回しが多数あります。
以下はよく使う接遇用語の一覧ですから、スッと言葉が出てくるように何度も練習を繰り返しておきましょう。
【頻出の接遇用語】
通常の言い回し | 接遇用語 |
わたし | わたくし |
一応 | 念のため |
誰ですか | どなた(様)でございますか |
少し/ちょっと | 少々 |
うちの会社 | 弊社/当社/わたくしども |
じゃあ | では |
用件 | ご用件/ご用向き |
なんでも | どちらでも |
どこ | どちら |
してもらえませんか | いただけませんでしょうか |
あっち | あちら |
せっかく来てくれたのに | わざわざお越しいただきましたのに/わざわざ足をお運びいただきましたが |
こっち | こちら |
今日 | 本日(ほんじつ) |
ごめんなさい | 申し訳ございません |
明日 | 明日(みょうにち) |
~だと思う | ~と存じます |
この前 | 先日(せんじつ) |
どうしましょう | いかがいたしましょうか |
今年 | 本年(ほんねん) |
そうです | さようでございます |
さっき | 先ほど/先だって |
知りません | 存じません/存じておりません |
あとで | 後ほど/改めて |
できません | 致しかねます |
すぐに | さっそく |
かまいませんか | 差し支えございませんか |
今 | ただ今 |
その通りです | ごもっともでございます |
間違えやすい接遇用語
丁寧な言葉遣いを意識するあまり、かえって間違った言葉遣いになってしまいがちな接遇用語。細かい言い回しひとつが間違っているだけでも会社の印象自体を損なうこともあり得ます。
間違った接客用語を覚えてしまわないように、正しい用語の使い方や言葉の言い回しを覚えていきましょう。
【例1】
誤:「こちらで伺っていただけますか」
正:「こちらでお尋ねいただけますか」
→「伺う」は謙譲語のため、お客様には使うのはNG。「お聞きになってください」でも可です。
【例2】
誤:「失礼ですが、どちら様でございますか」
正:「失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか」
→「ございますか」では丁寧さに欠けるため、接遇用語としてはNGです。尊敬語である「いらっしゃる」を使うのがこの場合は正しい接遇用語となります。
【例3】
誤:「こちらになります」
正:「こちらでございます」
→「なります」は物事が変化するさまを表す言葉です。ものの場所を指し示す言葉としては不適切な表現ですから使用しません。ものの場所を指し示すときには「~でございます」「~にございます」と表現します。
【例4】
誤:「お連れ様がお戻りになられました」
正:「お連れ様がお戻りになりました」
→「なられる」という尊敬語は存在しません。「なります」が正しい尊敬語の表現です。
【例5】
誤:「こちらにはいつ参られますか」
正:「こちらにはいついらっしゃいますか」
→「参る」は謙譲語です。従って、お客様や目上の人には使ってはいけません。「来る」の尊敬語は「いらっしゃる」です。
【例6】
誤:「こちらをお渡しするようにと、弊社の〇〇より伺っております」
正:「こちらをお渡しするようにと、弊社の〇〇より申し付かっております」
→「伺う」は尊敬語のため、お客様応対である接遇の場面で身内には使用しない。「申し付かる」が正しい言葉の使い方です。
【例7】
誤:「ご用件を賜わらせていただきます」
正:「ご用件を承ります」
→言い回しがくどく、誤った敬語の使い方となります。この場合はすっきりと「承る」を使います。
【例8】
誤:「〇〇様はおられますか?」
正:「〇〇様はいらっしゃいますか?」
→「おる」は「いる」の謙譲語ですから、お客様につかうのは失礼にあたります。尊敬語である「いらっしゃる」を使うのが正しい使い方です。
尊敬語と謙譲語の使い方を間違えているパターンと、「~のほう」「~になります」「~でよろしかったでしょうか」などの言葉そのものの使い方を間違えるパターンがあります。いずれも誤った言葉の使い方です。
敬語と接遇用語の違い
敬語には「尊敬語」・「謙譲語」・「丁寧語」の3つの種類があります。接遇用語は敬語とは異なる独特の決まった言葉遣いや言い回しがあり、敬語とは異なるものですが接遇の場面では接遇用語と敬語の両方を正しく組み合わせながら、美しい言葉遣いができるスキルが必要です。
敬語の種類
【尊敬語】
相手方を敬う表現であり、話し手である自分に対して上位に引き上げることで尊敬の意を表現する
例
- 「言う」→「おっしゃる」
- 「する」→「なさる」
- 「見る」→「ご覧になる」
- 「食べる」→「召し上がる」
- 「行く」→「いらっしゃる」「おいでになる」 等
【謙譲語】
話し手である自分がへりくだることによって、相手方を敬う表現方法
例
- 「言う」→「申す」「申し上げる」
- 「する」→「いたす」
- 「見る」→「拝見する」
- 「食べる」→「いただく」「頂戴する」
- 「行く」→「参る」「伺う」 等
【丁寧語】
語尾に「です」「ます」をつけてより丁寧な表現をすることで相手方に尊敬の意を表現する
例
- 「言う」→「言います」
- 「する」→「します」
- 「見る」→「見ます」
- 「食べる」→「食べます」
- 「行く」→「行きます」 等
「接客」と「接遇」の違いとは
なお、「接客」と「接遇」に違いについての境界線はわかりにくさがありますので、いったんここで整理しておきましょう。
【接遇】とは・・・相手に対する尊敬の意やもてなしの心をもって接すること。対象は全ての人となる。
【接客】とは・・・接遇の心をもって、「サービス」を利用される「お客様」をもてなす行為のこと。
つまり、接遇とは、仕事であるかどうかということは関係なく、一人の人として他者との関わりをするときのもてなしの気持ちや態度、言葉遣いのことを言い、接客は仕事としてお客様をもてなす場合のことを指し示すものであるということです。
ですから、「接遇用語」を正しく使えることは「接客用語」も正しく使えるということになるわけです。
接遇用語の使い方 まとめ
接遇用語をマスターするために一番大切なのは、「相手を敬う気持ち」「相手をもてなす気持ち」です。そして、敬語の3つの種類の違いを正しく認識して、使い分けをすることです。
そのうえでスムーズに接遇用語を使えるようにしてくための効果的な方法としておすすめは3つあります。
- マナー研修などの接遇について学ぶ機会を自分で意欲的に設けていく。
- 秘書検定を受験する。
- 接遇のすぐれた先輩やメンターのもと、実践で学んでいく。
現状の接客や接遇をさらにランクアップさせて質の高いサービスの提供ができるようにしていくために常に向上心を忘れずに努力していく姿勢を忘れないようにしていきたいものですね。